2019年11月16日(土)- 17日(日)、東京ビックサイトタイム24ビルにおきまして、第13回全日本高校模擬国連大会を開催いたしました。本大会には全国164校(253チーム)からご応募いただき、盛会のうちに幕を閉じることができました。この場を借りて、参加者の皆様及び暖かいご支援・ご協力を賜りました方々に心より御礼申し上げます。
日 程: 2019年11月16日(土)-17日(日)
会 場: 東京ビックサイトタイム24ビル
議 場:United Nations General Assembly 75th SessionSocial, Humanitarian and Cultural Committee (3rd Committee)
議 題: Moratorium on the Use of the Death Penalty
■会議紹介(文責:会議監督)
皆さんは死刑に対してどのような考えを持っているでしょうか。言わずもがな日本は死 刑存置国であり、昨年度も 13 人の死刑が執行されています。一方で世界の国々に目を向け ると死刑存置国および死刑執行数はここ数十年を通して次第に減少しており、地域機構や 国連においては長年、死刑廃止、死刑囚の人権、死刑モラトリアム等、様々な観点から死刑 に関する議論がなされています。その中には普段聞くことのないような視点からの議論も あることでしょう。
ところで、皆さんは普段の生活で権利について掘り下げて考えることは少ないでしょう。 それを格別意識しなければならないような状況に出くわすことがあるか、それを意識しな ければならない状況を認識するかどうかも人それぞれだと思います。
一方、人の生死という重大な結果が伴う死刑の議論においては、普段は眼前に立ち現れな い権利というものをどう観念するかが比較的わかりやすい形で問題となります。各国・各人 の権利に対する考え方は様々です。それが寄って立つバックグラウンドも様々です。準備段 階で担当国の立場を形成し会議において他の国との交渉を行う経験を通して、抽象的な権 利というものをどう観念するか考えてもらえればと思います。このトピックなら当然これ が正しい、この国なら当然こう考えるという思い込みではなく議論内容や各国の意見をそ の基礎となるものからできる限り理解してほしいと思っています。大変難しい議題ではありますが、国の代表という立場をもってどのような理由でどのような判断を下せるのか、ど のような解決策を見出せるのか、最後まで考え抜く皆さんの姿勢を期待します。
また、その過程で議題や各国の立場に対して自分はどのような理由からどう考えるのか という自らの意見を形作っていただけると幸いです。
■会議の流れ(文責:会議監督)
本会議では死刑モラトリアム(死刑の執行停止)を議題として 2 日間話し合いを行いました。論 点 1 として「人権と死刑」、論点 2 として「死刑モラトリアムと死刑の制限」を設定し、論点 1 に おける結論を念頭に論点 2 を議論するという構成になっていました。それぞれの論点についての作 業文書(Working Paper: WP)によって議論をまとめ、最終的な成果文書としては決議(Resolution)の 作成を目指しました。
会議の開催に先立ち、会議全体を見据えて論点 1 の意見共有を行い、論点 1 の方針および進め方 を議場全体で検討する旨の議長提案がなされました。
<会議 A>
会議 A では、まず議長提案である論点 1 に関する着席討議(Moderated Caucus: MC)が採択されました。
ここでは論点 1 に関する意見共有を通して、会議の結論を見据えた論点 1 を話し合う上で の方針が確認されました。その後、非着席討議(Unmoderated Caucus: UC)に移行してからは大ま かに EU 加盟国を中心とした死刑廃止国、存置国、立場の入り混じったグループの 3 つのグループ に分かれ、作業文書(Working Paper: WP)の作成を行いました。結果として、1 日目終了時には論 点 1 と論点 2 に対してそれぞれ 2 本の WP が提出されました。論点 1 の WP は廃止国、存置国を中 心とした 2 つのグループからそれぞれ 1 本、論点 2 の WP は廃止国中心のグループおよび立場の入 り混じったグループから計 2 本提出されました。
2 日目には主として UC が取られ、結果として死刑存置国を中心とした決議案 1 と廃止国およびモ ラトリアムを導入している国の一部を中心とした決議案 2 の合計 2 本の決議案(Draft Resolution: DR)が提出され、廃止国側の 1 本のみが際どい票数で可決されました。
会議中、異なる意見を持つ国との合意を図る動きも見られましたが、最終的な合意形成には至ら ず、今議題の難しさが議場に反映される形となりました。
<会議 B>
1 日目の会議 B では、まず議長提案の MC が会議冒頭で採択され、各国の主張や今後の進め方について意見の共有が行われました。
今回の会議の方向性に関して、論点を整理しながら建設的な議 論に持ち込もうとする姿勢が一部の参加者から見られましたが、時間の都合上ひとつの結論に至る ことなくその後の UC に入りました。UC では、各論点に関する WP の提出時間が設けられていた ため、各自期限までにグループ内の意見をまとめるべく、活発に交渉を行っていました。この時点 では、議場全体に小さなグループが多数存在しており、スタンスの細かな違いを反映したグループ が形成されていました。結果として、1 日目は合計 4 本の WP が提出されました。
2 日目の会議冒頭でも、参加者の提案により MC が取られ、前日に WP を出せなかった国を中心 に現状の文言スタンスの共有を行いました。また、一部の国から「国益を意識した行動」を求める 発言が相次いだことも印象的でした。UC では、死刑廃止国による複数のグループが融合し、1 本の 決議案を作成したとともに、存置国と一部の廃止国を中心とするグループも決議案の作成を進めて いました。最終的に存置・廃止国の決議案は議場に提出されず、廃止国が提出した決議案のみが採 択にかけられ、僅差で否決となったため決議は採択されませんでした。
【決議要旨】
<会議 A>
会議 A では 2 本の決議案が投票にかけられ、片方が採択されました。
決議案 1 は死刑存置国を中心として作成されたもので、各国の主権を重視し、死刑を明文で認め た上で死刑モラトリアムについては各国が判断すべきものとしています。スポンサー国でさえ、全てが本当にこの決議案に賛成票を投じて良いものなのか疑問が残るようなラディカルな表現もあり、 結果的にこの決議案は死刑廃止国側の反対により否決されています。
決議案 2 は廃止国および現状死刑モラトリアムを行なっている国の一部を中心として作成された ものです。死刑の廃止に向けたモラトリアムおよび死刑の漸進的制限を主な内容としつつ、死刑モ ラトリアム導入に向けた取り組みを提言している点で過去の決議と異なる独創性を見せています。 中には、文字通り読むと大変ラディカルな文言も多かったのですが、この決議は 2/3 以上の賛成に より可決されています。
<会議 B>
会議 B で作成された 2 つの決議案は、これまでの議論の経緯と過去の決議を尊重した死刑廃止国による決議案 1 と、死刑存置国も賛成しやすいような今会議独自の文言を作成した存置・廃止国の 決議案 2 であり、これらは様々な意味で対照的なものでした。
内容に関しては、決議案 1 は基本的に過去の決議を踏襲しながらも、新たな死刑の制限や国際機 関の監査について一部盛り込んでいるのに対し、決議案 2 は主権尊重の文脈のもと、制限されるべ き「恣意的な死刑」の定義をしたり、義務教育において死刑を扱うという政策を立てたりするなど、 新たな提言を多く行っていました。決議案 1 を深い議題理解と文言理解に基づいた、賛成国による 漸進的な一歩だとするなら、決議案 2 は柔軟な発想のもと模擬国連ならではの議論の展開を試みた、 存置・廃止国による独創的な決議だと言えるでしょう。結果として提出された決議案 1 が僅差で採択されなかったことを鑑みると、議場のグループ間を 跨いだ分断は深く、両決議案の理念の共有及びすり合わせの議論が十分行われなかったと考えられます。
■受賞校一覧
最優秀賞
会議 A:Australia 大使 桐蔭学園中等教育学校Aチーム(神奈川)
会議 B:Mexico 大使 駒場東邦高等学校 B チーム(東京)
優秀賞
会議A:Chile大使 海城中学高等学校 A チーム(東京)
Kenya 大使 大妻高等学校(東京)
会議B:Botswana大使 渋谷教育学園渋谷高等学校(東京)
Ireland 大使 灘高等学校(兵庫)
地域特別賞
会議A:United States of America 大使 札幌日本大学高等学校(北海道)
会議A:Belgium 大使 愛光高等学校 A チーム(愛媛)
ベストポジションペーパー賞
会議 A:Argentina 大使 鹿児島県立甲南高等学校(鹿児島)
会議 B:Canada 大使 長野県立上田高等学校(長野)