実施報告 第14回全日本高校模擬国連大会

 2020年11月14日(土)- 15日(日)、第14回全日本高校模擬国連大会をオンラインにて開催いたしました。本大会には全国140校(219チーム)からご応募いただき、盛会のうちに幕を閉じることができました。この場を借りて、参加者の皆様及び暖かいご支援・ご協力を賜りました方々に心より御礼申し上げます。

日 程: 2020年11月14日(土)-15日(日)
会 場: オンライン開催(Zoomを使用)
議 場:United Nations General Assembly 75th Session Special Political and Decolonization Committee (4th Committee)
議 題: Uses of Outer Space

議題概説書

報告書

【会議紹介】(文責:会議監督)

 宇宙という言葉は皆さんにとって決して馴染みが薄いものではないと思います。ほとんどの人は中学校の理科や高等学校の物理・地学の授業で宇宙について学習しているでしょう。しかし学問の対象としての宇宙について学ぶことはあっても、それが普段の生活に密接に関わっているということを意識する機会は少ないのではないでしょうか。BS放送、スマートフォンの地図アプリ、天気予報など私たちは人工衛星を利用したサービスを日常的に利用しています。このように探査や研究だけではない「利用」の場としての宇宙を今回の会議では扱います。
 宇宙はどこの国の領域にも属さない空間です。そのため国際社会で宇宙を開発・利用する際のルールを決め、各国の宇宙政策を調整する必要があります。また宇宙で活動するためには特に高度な技術力と相応の経済力を必要とするため、それらを十分に持たない発展途上国が宇宙利用による恩恵を受けるには先進国からの援助が不可欠です。宇宙利用の持つこのような性質から各国の利害は多様であり、意見の対立も見られます。しかし人類が宇宙を利用してより豊かになるという、根本にある共通の目標を達成するためには、その対立を乗り越えなければなりません。大使の皆さんには宇宙利用が抱える課題を理解したうえで、対話による協調を目指してほしいと思います。
 現在存在する宇宙利用に関する代表的な国際規範のほとんとは40年以上前に作成されたものです。しかしその時代から宇宙利用を取り巻く状況は大きく変わり、これらの規範では対応できない問題も出現しています。大使の皆さんはそのような既存の枠組みが抱える課題を踏まえて、現代の宇宙利用の実態に即した新たな国際制度の可能性を探ってください。
 宇宙利用という新時代に向けて加速している開発を扱う議題に、皆さんが存分に力を発揮して取り組むことを期待します。

【会議の流れ】(文責:会議監督)

本会議では宇宙利用を議題として2日間話し合いを行いました。会議を円滑に進行すること、また議論の範囲を制限することを目的として以下の2つの論点が設定されていました。論点1は「すべての国の利益のための宇宙利用」と題され、先進国と途上国の間の利益調整や宇宙資源の利用方法について議論する内容でした。論点2は「持続可能な開発と宇宙」であり、宇宙利用技術を持続可能な開発のために利用する具体的政策やスペースデブリ問題への対処について扱う論点として設定されました。それぞれの論点についての作業文書(Working Paper:WP)によって議論をまとめ、最終的な成果文書である決議(Resolution)の作成を目指しました。
 本会議に先立ち、論点1についての各国の考え方を共有し、論点1の進め方を決定するための着席討議(Moderated Caucus:MC)を会議冒頭にとる旨の議長提案がなされました。

<会議A>

 会議Aでは、まず議長提案である論点1に関するMCが決にかけられ、過半数の賛成で採択されました。計2回のMCで論点1に関する各国の意見が議場で共有され、その相違も明らかになりました。宇宙資源の利用という具体的課題について全体での議論を継続するために引き続きMCをとることを主張する大使もいましたが、その後の動議では非着席討議(Unmoderated Caucus:UC)が採択され、以後も主にUCによって議論が進行しました。
 最初のUCではどのようにグルーピングを形成するかについて、Zoomのメインルームで全体議論が行われていました。その後いくつかのグループに分かれて論点1のWPを作成し提出を目指しましたが、UC冒頭のグルーピングに関する議論が長引いたこともあり時間内に提出されたWPは1本のみでした。一方論点2のWPについては、アジアの途上国、アフリカ・中南米の途上国、先進国といったグループに分かれて十分な時間の議論が重ねられ、計4本のWPが提出されました。
 2日目には主としてUCがとられ、一部の論点についての継続的な議論やグループ間のコンバイン交渉が進められました。最終的に議場では2つの決議案(Draft Resolution)が作成されていましたが、そのうち1つのDRは提出締め切り時間に間に合わず、受理されたDRは1本でした。このDRは決議にかけられ過半数の賛成で採択されました。

<会議B>

 1日目の冒頭に、会議の進め方についての議長提案が議場で受け入れられ、「論点1:すべての国の利益のための宇宙利用」についての考え方の共有と議論進行方法の話し合いが全体の場でなされました。各国が自国の意見を共有し、大きく分けて3つのスタンスの国々がいることが議場で確認されました。これに基づき、先進国グループと発展途上国グループ、中間国グループの3つに分かれ、グループごとに論点1の議論が深められました。しかし同じグループ内でも注力する論点が国によって多様であったため、優先順位をつけて議論することに難航し、WPを提出できなかったグループもありました。しかし続いて議論された「論点2:持続可能な開発と宇宙」では、グループごとに目指す目標や持ち寄った政策について盛んに議論され、全てのグループからWPが提出されました。
 2日目は前日に提出されたWPを基に、グループごとに昨日までの議論の深掘りや議論できていなかった「宇宙資源利用」や「スペースデブリの発生を抑える政策」について活発に議論がなされました。クラウドファンディングを用いた政策など、既成概念に捉われない独自の政策が多くみられ、実行主体などまで具体的に議論されました。しかしグループ内調整に時間を要し、コンセンサスに向けた交渉が十分にできず、DRが2本提出されました。スポンサー数の関係上、1本のDRが決議にかけられ、可決されました。

【決議要旨】(文責:会議監督)

<会議A>

 議場Aでは先進国を中心に作成されたDRが提出され、投票の結果過半数の賛成で採択されました。

 この決議は設定された幅広い論点を網羅し、多くの政策が盛り込まれたとても意欲的な成果文書でした。特徴的な政策としては、宇宙資源の利用についての国際的合意の設立を加盟国に要請したことが挙げられます。決議にはさらにこの国際合意に含まれるべき内容も列挙されており、先進的な政策であると評価できます。スペースデブリ問題については、各国の拠出によってスペースデブリ除去基金を設立することを規定しており、またその拠出金分担の基準や実際のスペースデブリ除去事業の実施方法についても言及するなど、こちらもよく練られた政策でした。

 「すべての国の利益のための宇宙利用」を実現するために必要な先進国から途上国への援助については、キャパシティ・ビルディングの支援や技術者教育などいくつかの政策が挙げられていましたが、途上国が特に求める宇宙活動から得られる利益の直接配分についての一般的な言及はあまり見られませんでした。また宇宙資源については、採掘・所有する権利を認めることが前提となっており、国際的なレジームのもとで採掘を進めたいと考える国は納得できなかったかもしれません。以上で挙げたような理由からか、実際途上国を中心に決議へ反対票を投じる国が相次ぎました。過半数の賛成を得て決議が可決されたとはいえ、宇宙利用に関連する決議で重要なコンセンサスでの採択を達成できなかったことは、1つの課題として残りました。

<会議B>

 議場Bでは主に途上国を中心に作成されたDRが提出され、投票の結果過半数の賛成で採択されました。
 この決議は特にスペースデブリ問題への対処について、新規デブリ発生の抑止と既存でブリの除去という両面から具体的な政策を立案していることが特徴的でした。特にスペースデブリ排出権を取引するクレジットシステムの設立という政策は、他分野にみられる取り組みを宇宙利用に応用したものであり、画期的なアイディアといえます。また既存スペースデブリの把握と除去のために、各国が提供する資金によって運営される新しい国際システムを立ち上げるという政策も、実現すればスペースデブリ問題の解決に資することでしょう。
 スペースデブリ以外の論点についての具体的な政策はあまり見られませんでした。しかし一方で宇宙技術を持つ先進国に対して、途上国への支援や衛星データの提供を強く要請する内容がいくつか見られました。宇宙資源の利用についても、国際的なルール作りを加盟国に求める内容が盛り込まれています。こうした内容に特に強い利害を持つ一部の先進国には、この決議はやや急進的すぎるように映ったでしょう。実際の投票でも棄権した国が1か国、反対した国が1か国あり、コンセンサスでの採択はかないませんでした。ただしスペースデブリ問題の具体的な解決策や、「すべての国の利益のための宇宙利用」を前進させる政策を含む決議を賛成大多数で採択したこと、そしてそこに至るまでの交渉と議論の過程は評価に値すると思います。

【受賞校一覧】

最優秀賞
会議 A:Japan 大使 灘高等学校(兵庫)
会議 B:Nigeria 大使 渋谷教育学園渋谷高等学校(東京)
優秀賞
会議A:Chile大使 開智高等学校(埼玉)
      Germany 大使 駒場東邦高等学校(東京)
会議B:Luxembourg大使 桐蔭学園中等教育学校(神奈川) 
 Republic of Korea 大使 大妻高等学校(東京)
地域特別賞
会議A:Iran 大使 高水高等学校(山口)
会議B:Chile 大使 宮城県仙台二華高等学校(宮城)
ベストポジションペーパー賞
会議 A:Indonesia 大使 聖心女子学院高等科(東京)
会議 B:Germany 大使 大阪府立天王寺高等学校(大阪)