実施報告 第3回全日本高校模擬国連大会

2009年11月21日(土)-22日(日)、東京の国連大学におきまして、第三回全日本高校模擬国連大会を開催いたしました。本大会には全国から50チーム100名にご参加いただき、盛会のうちに幕を閉じることができました。この場を借りて、参加者の皆様及び暖かいご支援・ご協力を賜りました方々 に心より御礼申し上げます。

日 程: 2009年11月21日(土)-22日(日)
会 場: 国連大学本部
議 題: 地雷問題の解決に向けた包括的対策(“Comprehensive measures for solving landmine issues”)
会議場:第64回 国際連合総会本会議 

■会議紹介

カンボジアにある男性がいます。

彼はクメール・ルージュに連れ去られました。不慣れな地雷の改造に従事させられた彼は、誤って手元で地雷を爆発させてしまいました。左手の指5本と右手の人差し指から小指までの第一関節から先を失いました。両手の手のひらは起爆の衝撃と火傷で硬直状態になりました。
一度クメール・ルージュから解放されるも再び同組織に捕まった彼は、連行先の森林で地雷を踏みました。右足の膝下を失いました。

和平協定後、彼はタイの難民キャンプからカンボジアに帰還しました。新しい生活が始まりました。しかし、雑草刈りをしているときに再度地雷を踏んでしまいました。左足の膝下も失いました。

質問:「地雷はどうしても必要ですか?」

答え:「地雷が必要かだって。当たり前じゃないか。必要だから使っているんですよ。いいですか、私たちは戦争をしているんですよ。あれこれ議論するのはいいが、死んでしまったら何も残らない。また戦争に負けてしまったら、これまでの努力や苦労が水の泡です。戦争に勝つため、そして生き残るためには何でもできることはするし、使えるものは何でも使う。これが戦争です。」

-アンゴラの反政府組織、アンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)の大佐の言葉-

「悪魔の兵器」、「卑怯者の友達」、「貧者の守護神」、「疲れを知らない門番」、「スローモーションの大量殺戮兵器」、これらはすべて地雷についた別名です。本来的に非人道的である兵器の中でも、「非人道的」兵器として地雷は語られます。対人地雷禁止条約の作成経緯、そして同条約に156カ国が批准している現在に至るまでをみても、地雷の持つ非人道性は国際的に広く合意がなされているといえます。
他方において、地雷を必要とし実際に使用する主体は今なお存在します。対人地雷禁止条約の理念である地雷全廃に対して難色を示す国家も存在します。費用対効果の観点などから、地上戦において地雷に勝る兵器は存在しないともいわれます。

地雷を作る国と地雷の被害を受ける国、地雷の全廃を望む国と地雷の規制下での使用を望む国、そして必要とする国と必要としない国。これらの国すべてが集う国連総会本会議で大使となる高校生のみなさんには、地雷問題の解決に向けた包括的な対策を検討していただきます。会議では、頭の中に常に対立する他者を描きつつ、一国を背負う大使としての発信と受容を繰り返してほしいと思います。そして、会議後には地雷問題を会議前よりも近い距離で、みなさんに意識していただければと思います。

<注釈>
*カンボジアの事例
目加田説子『地雷なき地球へ―夢を現実にした人びと』
(岩波書店、1998年、pp14-16)

*アンゴラの事例
神保哲生『地雷リポート』(築地書館、1997年、p176より抜粋)

■会議経過

 会議冒頭から、会議の最終報告書たる決議の採択を目指して、積極的にグループが形成されました。過去の大会と比較して、スムーズにグループが形成されました。これは、模擬国連が広く各高校に普及してきた結果、複数回大会を経験したことのある高校が増加したためと思われます。初日には決議のたたき台たる決議案が5本提出されました。その後、グループごとに代表者が、決議案の骨子や2日目の行動予定を議場全体に共有しました。
 2日目は、決議案を提出したグループごとにまとまって行動する光景が目立ちました。グループ間で対立する意見を調整する際には、非常に鋭い論を展開する大使もいました。また、2つの決議案を1つにまとめて、さらなる支持国の拡大を目指す動きもありました。結果として5本の決議案の内2本の決議案が1つになり、たたき台たる決議案を修正した修正案は4本提出されました。その後、再び各グループごとに分かれて、各修正案の骨子並びに各修正案への質問を議場全体で、共有しました。投票直前まで、議場全体で行なわれた討議での質問への応答を軸として、各グループとも賛成国の取り付けに奔走しました。最終的には、4本の修正案すべてが賛成多数で採択されました。

■決議要旨

 4本の決議は、どれも地雷に対する対処療法的対策が目立ちました。すなわち、地雷の被害者に対する支援や、地雷除去をより円滑に行なうための方策が列挙されることになりました。これは参加国すべてが地雷の持つ非人道性を認識し、地雷被害に対して一致団結して取り組む決意が表れていたと考えられます。
その反面、根治療法にあたる地雷の使用や流通そのものを取り締まる内容は、ほとんど記載されませんでした。これは、今回の会議が地雷被害に対する対策に焦点が置かれていたことを、如実に示していたといえます。

■会議総括

 会議経過にも記述したとおり、今回の会議では模擬国連が各高校に浸透してきたことが、はっきりとわかることとなりました。会議のルールや大きな流れを高校生が良く理解してきたことが、会議中随所に感じられました。議題設定に記述した模擬国連の特徴たる、国を代表して会議に出席することの意味も、多くの高校生がしっかりと体現していたと思います。
 より多くの高校生が、国の立場に立って議題に取り組むということは、参加している高校生全体の利益に繋がります。なぜならば、模擬国連の会議が実際の国際会議に近づくからです。実際の国際会議に近づけば近づくほど、実際の国際問題が抱えるジレンマを痛感することができます。ジレンマを痛感することは、高校生をさらなる高みへと研磨させます。高校生がさらなる高みに到達することは、グローバル・クラスルームの理念たる、未来の国際社会に指導者的立場から貢献する人材の育成に繋がるといえます。
 模擬国連が高校生に浸透し、大会が実際の国際会議に近づいたという点で、今回の大会は来年以降の大会、さらにはグローバル・クラスルームの理念に繋がる一歩になりました。

■受賞校

最優秀大使賞
桐蔭学園中等教育学校(India)

優秀賞(五十音順)
埼玉県立浦和第一女子高等学校(Germany)
渋谷教育学園渋谷高等学校(Angola)
渋谷教育学園幕張高等学校(Lao People’s Democratic Republic)
聖心女子学院高等科(Jordan)